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「ついにきた、電子申告!しかも名古屋が最初!!」
 「電子申告は税理士にとって黒船のようなものであります。」
 いささか強引な仮説でありますがここから、全税理士会員がこの度の電子申告制度を真剣に受け止め、すみやかに対応していかなければ、「税理士制度は崩壊する」という私見を述べさせていただきたいと思います。
 拙稿は、電子申告に対する観念的な面に止め、まず電子申告に参加する気持ちを醸成していただけることを目的とします。具体的な手続きや技術的なお話はまたの機会にいたします。ご興味のある方は、「税理士界」平成15年6月15日号7〜10ペ−ジもしくは、日本税理士連合会のホ−ムペ−ジの「税理士からみた国税電子申告・納税システム」さらには、国税庁のホ−ムペ−ジhttp://e-tax.nta.go.jp/index.htmlをご覧下さい。
電子の世界から黒船来る!
 徳川幕府のその260年余におよぶ長い歴史は、黒船の来航を機に変化していきました。当初は「攘夷」の言葉の元に諸外国を排除しょうとしていました。幕府(政府)は段階的に開国しようとしますが、攘夷論者の抵抗はその後も続きました。結局は、徳川幕府が倒れ、日本は明治政府の時代に諸外国に追いつくために外国の文化を遮二無二追いかけることになりました。結果として、日本の近代国家の基盤を形成できたわけですから、目を覚ましてくれた黒船は日本にとっては救世主だったのかもしれません。
 今、「電子申告」という制度については、従来の税理士業務から考えれば、無理して追随しなくても日常業務には何ら支障のきたさない制度なのかもしれません。しかし、来年2月には、実際に電子申告が開始されてしまうのです。しかも、全国に先駆けて名古屋国税局管内からです。「待ったなし」で私達はこの制度に何らかの回答を出さなければいけない立場に置かれています。
電子政府の実現
 「電子申告」は日本政府の重点施策である「電子政府」実現のための目玉です。すなわち、長い経済低迷からの脱出や日本の将来を託した大きな流れの中で行われることです。したがって、強引なまでに政府はこの実現を図っています。
 昨年の動きとして、「規制改革推進3か年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)では、「国税の申告手続きについて、平成15年度から、一部税目についてインターネット等による申告を可能とする」ことを決めています。また、「e−Japan重点計画−2002」(平成14年6月18日IT戦略本部決定)では、「実質的にすべての申請・届出等手続が、原則として24時間、自宅や事務所から行うことが可能となる」、「申請・届出等に必要な手数料納付、納税等をインターネット等により行うことが可能となる」という明確な目標設定をしています。
 これらの動きを受けて、各省庁もさまざまな対応をしてきています。例えば、法務省では商法改正で貸借対照表を自社のホームページで公開することを認めました。特許庁では、更に進んでいて、弁理士が紙ベ−スで申請するとスキャナーで読取りデジタルデータに変換する分?余分にお金がかる仕組みにしています。国土交通省では電子申請のシステムはもとより「電子入札」(http://www.mlit.go.jp/)を全面的に実施しています。その他、各省庁の「電子政府」に対する取組は確実に大きな動きになってきています。
IT立国日本?
 一般社会でのインタ-ネット環境は予想以上に整備されてきています。総務省の通信白書平成15年度版よれば、平成14年末のインタ-ネット利用者数は6,942万人で世界2位。普及率は54.5%で、世界10位ですが前年の16位から一気にランクを上げました。また、ブロードバンド(高速大容量)通信の料金の安さと速さの総合評価で日本は世界1位(情報通信の国際ルールを決める国連専門機関、国際電気通信連合(ITU)の調査結果)だということです。さらに、ITUは調査結果をもとに、いつでもどこでもインターネットに接続できる「ユビキタス社会」への先導役に日本を指名したという記事もありました。
 もうすでに、日本の社会一般ではインタ-ネットがデファクトスタンダ-ド(de facto standard:市場の実勢によって決まる業界標準)になっています。電子申告にはその通信やり方としていろんな方法があって、諸外国ではパソコン通信を中心にしている国も多いのです。しかしながら、日本の電子申告はインターネットです。日本の社会がインタ−ネットを中心に活力を取戻そうとしている以上当然の選択と言えます。
インタ-ネットは怖くない
 「インターネットなんて目に見えないから信用できない。」日々新聞紙上でネット犯罪やインターネットネットに関する影の部分がクローズアップされていて、これが理由で馴染めないというご意見を伺うこともあります。
 確かに、ウイルスは世界中に蔓延し、ネット上の犯罪も増えています。しかしながら、この様な問題は、どんな道具どんなものにもありえることです。たまたままだ目新しい分野なので注目の度合も高いのであって、ちゃんとしたプロバイダ−を選んでいて、サ−バ−に対する不正侵入をファイヤーウォールで防ぎ、ウイルスチェックをするシステム作りをしていれば、被害にあう確立は減少します。インタ−ネットよる犯罪で大きな被害に至る確立は、中日阪神戦でスタンドにいてファウルボウルが近くに飛んでくる確立と同じというのは、言い過ぎかもしれませんが・・・・・。」
 それでも、「コンピュ−タの基本的な仕組みくらいは知っておかないと動かせないのではないか。」という質問は必ずついて回ります。その時例え話として、次のようなお話をいたします。
 車を動かすのにエンジンの仕組みや治し方を覚えていないと乗れないわけではありません。車はとりあえずキーをさして回し、アクセルを踏めば前に進みます。あとはハンドル捌きの経験だけで車の運転はできてしまい大変便利です。
 あるいは、携帯電話をかけるのに、何で繋がるのかについて通信技術の研究をするわけではありません。最近は高校生の女の子が左手の親指だけで携帯電話をスピーディに使いこなしている場面をよく見ますがますが、彼女たちは通信技術に関しての知識が豊富なわけではありません。最低限のオペレーションができれば便利なものは、我々に大きな利便性を提供してくれます。
 インターネットも全く同じです。インタ−ネットは怖いものではないので、慣れてしまえば非常に簡単で楽しいものです。今は、その導入について躊躇している段階ではありません。 
電子署名・電子認証シンポジウム
 東京の税理士会は電子申告の研究が進んでいます。7月1日と2日に東京で「電子署名・電子認証シンポジウム」という研究会に参加してまいりました。日比谷の東京弁護士会館(素晴らしい建物)で2日間びっしり、電子署名についての研究成果を伺ってまいりました。電子政府実現にあたり税理士会だけでなく、弁護士・司法書士・行政書士・建設業者・医師等、どのように対応していくべきかの研究会でした。
 その中で、東京税理士会の方々が大変活躍されていて、頭の下がる思いでした。そして、名刺交換させていただ後で、シンポジュウムの総まとめの場があり、そこであるパネラ−の方が「名古屋国税局の電子申告の動きに大変注目しています。7万人近い会員の属性を有する税理士会がスム−ズに機能すればギネスものなので。」と発言されました。私はこの役職に就任したばかりなので、大変なプレッシャ−に感じました。同時に各方面から注目されている名古屋税理士会は何としてでも「電子申告」の最初の導入局の税理士会としてある程度まともな答えを出さないと未来永劫話題にされてしまいそうだという恐ろしさまで感じてきました。
 東京税理士会の方々の発言には、「急に、準備時間も無しではできるわけがないよ。」という気持ちと、「ともかく、税理士制度を守るためには名古屋が何とかがんばってくれ。」という気持ちが交錯しているように思えました。
 もし、税理士会員の電子申告率が低調であれば、おそらく、一般業者に税務申告の電子による仲介を認め、他属性の認証局を増やしてでも電子政府の完成を目指すことは間違いありません。となると、税理士の業務独占は崩壊します。名古屋税理士会は大変な風を受けることになります。
今すべきこと
 日税連はCA(認証局)となるべく申請をこの7月に提出し、間もなく認証局としての承認が降りると聞いております。それ以降、全会員に対応するだけのICカードが準備されるのですが、これについては待っていれば税理士会が自動的に配布するものではありません。自ら、住民票等を準備して申請をすることになります。
また、住民票の住所と税理士名簿上の自宅住所が違っていますとICカ−ドの取得はできません。この点も、今のうちに税理士名簿の登録事項等は確認しておいていただく必要があります。
 しかし、さらにそれ以前に今すべきことは、まだインタ−ネットに慣れていらっしゃらない方々が一人でも多く慣れていただくことです。そのためには、日々電子メ−ルの交換をするとか、あちらこちらのホ−ムペ−ジの閲覧(ネットサ−フィン)をするとかで、インタ−ネットに対する抵抗感をなくしていただくこと、楽しんでいただくことだと思います。
申告書の送り方が1つ増えた
 単純に考えれば、従来の申告方法に比べて、申告書の送り方が1つ増えただけなのです。書留や配達証明付で夜中に郵便局に走る代わりに電子申告をするという考え方でもいいと思います。ともかく、この流れは止められないので、避けていては、結果として、税理士の業務独占は崩壊します。電子申告は黒船の来航と同じだと思ってください。
 名古屋税理士会の会員先生方の「電子申告」に対する厚いご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

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