中小企業のIT経営は大企業とは違う。情報リテラシーの向上施策を望むと同時に国家プロジェクトで作ったITコーディネータの利活用をしていただきたい。
私どもの関与先である中小企業は、時代の流れについていくために、「IT化しなければならない。」という焦りがあります。そこで、パソコンを導入するものの、操作する人員のスキル・知識が低いため充分に活用されていない場合が多く見受けられます。やはり、中小企業が大企業に対抗して存続するためには、あるいは、電子政府化の歯車のなかに入り込み自ら効率経営を行うためには、中小企業のIT化は回避できません。そこで、中小企業のために情報リテラシーの向上をさせる施策が望まれます。
同時に、ここまでパソコンが蔓延してくると、知識不足ゆえにセキュリティの問題も重要になってきます。セキュリティ問題の多くは、人的なミスによるものがほとんどであり、ITに関する教育も大切な分野と考えられます。この問題も中小企業の情報リテラシー向上施策の範疇になります。
現実に、IT経営において一番問題なのは、大手のITベンダーが中小企業のIT化で独特な領域だとして、中小企業を食い物にしていっていることであります。「ベンダーのプレゼンのうまさだけに頼って、大きなIT投資をしても最終的に思うような結果が得られない。あるいは、データは膨大にでたが経営の意思決定の役に立てられない。一部でも改良を求めると多額の変更コストを請求される。ソフトのバージョン変更等で維持コストが莫大になる等々。」
これらの問題を解決するためには、中小企業経営者とベンダーの中間に入る人材の重要性が増します。中小企業のほとんどに関与している税理士の中にもITに強い者はいます。しかしながら、税理士会の平均年齢を考えると、全般的に対応できる状態ではないことは明らかです。そこで、ITコーディネータ(以下「ITC」)と言う資格(税理士も併用している者がいる)を有効に活用していくべきだと考えます。
ITCは、国家プロジェクトの一環として誕生した「経済産業省推進資格」です。「IT新改革戦略」の中でも重要な人材として位置づけられています。税理士はこの制度の当初において、多くの者が資格取得のために奔走しました。しかしながら、現実にはその重要性、位置づけがだんだんあやふやなものになってしまっています。ITCの全国組織の中で、もっとも組織率が高い大所帯のNPO法人ITC中部の役職者として、大変懸念していることは、税理士・公認会計士でITC登録した者が、その存在価値の希薄さと、資格維持コストや時間の問題で次々と退会していることであります。国家プロジェクトの一環として誕生させた資格で、いま、IT経営を推進するためにこれほど必要であることが明らかな資格を、このままうまく利活用しないで放置しておくことは大変問題です。
たとえば、インセンティブ施策として、IT投資をする中小企業に多くの所得控除・税額控除を認めることもありますが、ITC(税理士)がIT投資の企画書を作成すれば、国から取得機械の何分の一かの補助金が下りるとか、ほとんど無利息で借りることができるとか、成果を可視化できるまで支払を延期できるなどの制度があれば、活躍場面も広がるものと思います
私どもNPO法人ITC中部は、ITCの存在価値が希薄になることを防ぐため、また、元気のいい中部の中小企業にITCをアピールするため、先般、大きなITイベントを行いました。私どもが中心となり、ITC協会主催で、6月9日に始めて東京以外で「IT経営カンファレンス2007IN名古屋」を名古屋駅前のミッドランドスクエアで開催いたしました。500名近い方の来場があり、開催者側として盛大に終われたことに感謝している次第です。来所者のうち、中小企業のIT経営に興味のある経営者は214名。開催1週間前には満員御礼状態でした。やはり、中小企業の経営者のIT経営に関する興味は大きく、同時に成功した事例発表にまで多くの経営者が関心を寄せてくださったことを見ると、実際に充分に活用しきっていないからニーズが多いのだという確信を得ました。http://www.itc-chubu.jp/ITMC/
このカンファレンスにおける基調講演者は、一橋大学の米倉誠一郎教授。IT経営のあるべき姿に多くの示唆に富んだ情報をいただきました。中でも、日本がこれからIT経営をするに当たって進む方向性として、「小さくても世界を変える、日本のイノベーション」というところが記憶に残っています。
私どものIT経営カンファレンスは「ものづくり愛知の力をみせよう」という趣旨でした。私が作成したプレイベントの企画パンフは全て、「ものづくり愛知体験ツアー」「ものづくり中部体験ツアー」と言う内容で、トヨタ自動車の元町工場見学や、トヨタもベンチマークする中小企業の鍋屋バイテックという企業訪問を実行し、大きな評価をいただきました。
ところが、そのプレイベントの翌日の基調講演で、「サービス業を強くしなければ日本経済は強くならない。(サービス業の労働人口と製造業の労働人口比較から)」「ものづくり信仰が国を滅ぼす!!→車ではなく交通システムを。工場ではなく省エネルギーを。「もの」ではなく、ソリューションを売る国になるべき。」「ITはそのために使いなさい。」という内容でした。
ものづくり愛知を標榜している者にとって、「ものづくりにこだわると国が滅びる。」なんて、驚き以外の何物でもありませんが、「ソリューションを売る国になる。」というお話は充分理解できました。日本国のあり方もさることながら、中小企業のあり方もIT経営に関しては同じだと感じました。
中小企業にパソコンというハードををただ導入しても、その後の使い方(ソリューション)をしっかりサポートできる高度な人材がない限り、中小企業のIT化は形式だけのものに終わります。IT経営化を考える場合、このあたりをサポートできる人材の育成が最大の課題のようです。
私は、税理士・ITCを沢山育成することも必要ですが、両資格がうまくコラボレートして、中小企業のIT経営の支援ができる体制を早急に構築すべきだと考えます。
<参考>
ITコーディネータとは
「企業にとって戦略的IT投資が重要な経営戦略として位置づけられる中、ITユーザーとITベンダーの双方の立場を理解し、経営者の立場から「真に経営に役立つIT投資」をサポートできる人材が必要不可欠なものとなっています。
ITコーディネータは、経営とITの両面に精通し、企業経営に最適なIT投資を支援・推進することができるプロフェッショナル。
企業の戦略的IT投資を推進する国家プロジェクトの一環として誕生した日本で唯一の資格認定制度として、NPO法人ITコーディネータ協会がその育成・認定・普及・啓蒙活動を行っています。」